「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」

どんな映画?と聞かれたら題名通りですね。沈没する船から救助艇で脱出したら同乗者がベンガルタイガーのジャックパーカーさんでした。
ネタバレ回避。


過酷な漂流生活を描いたドキュメンタリーな作りかと思ってたんですが、そう思ってみてると割と最後でいい意味のショックを受けると思います。そもそもが、漂流から生還した主人公ピシン(相性piパイ)さんが、漂流からかなり時間が経った後に、親戚のつてで知り合った小説家に漂流時の記憶を語る回想形式なんですが、当然映画なのでビジュアルとして描かれる漂流がまるでリアルな情景かのように感じられます。実際227日をたかだか二時間で話終えるわけもなく、実時間も映画の途中で過ぎている描写があります。ここで重要なのは回想であるということと、唯一の生存者ということの二点。
つまり、どんなに過酷な生活であっても必ず生還する事が約束されている事と、その回想を検証することがほぼ不可能という事。パイさんがどんなに嘘を言おうと真実を語ろうと聞き手である小説家、すなわち観てる客が何を信じるかという点でかなり投げられているため、最後のシーンでのある寓話というか事実に対して一切の説明は無く、なにを感じるかは受け手にゆだねられている。これをドキュメンタリーととるかファンタジーととるか、サバイバルものとみるか宗教的なものとみるかは人それぞれということかな。
実際作品中の全編に渡って一貫して描かれている宗教観というか自然に対する人間の無力感などは、割と分かりやすいですし、結局はパイの主観視点であるからには自然とインドの文化としてのヒンズー教が描かれるのは当然かと。個人的には序盤と後半でそれぞれ出てくる嵐のシーンがまったく逆の描かれ方をしていて、その時間経過と精神性がこの作品のテーマなのかなぁと感じたものだ。
とはいえ、生き残ったパイさんが割とフランクな宗教観に描かれてて、こういう極限体験をした人がものすごくスピリチュアルな方向にハマったりすることに対してストッパーかけてるように見えなくもなかった。考え過ぎだろうけど。
映画としては、先にも言ったように実際のところはパイさんしか分からない事実なので、ラストに出てくる浮き島やらなんやらがファンタジーみたく受け取れるし、ドキュメンタリーにも見える巧い作りだと思う。正直あんまり期待してなかったけど、楽しめた。ちょっと長いけど。
終盤に出てくる沈んだ船の保険調査員が日本人設定で、普通に日本語で会話しててちょっと面白かった。インドのシーンとかでは英語字幕とか出てたのにそこらへんは何も無いんで大した会話ではないけど日本語なんで何言ってるか丸わかり。ひどいこといってんなこいつら。