きのうの感想の雑文

この文章のスタンスはこんなもんです。キャラ名とかはあえて書きません。

  1. 菊地秀行氏のファン
  2. 現在、「空の境界」読書中
  3. 映画「空の境界」一章を鑑賞済み
  4. 過去に、半村良氏、夢枕獏氏、笠井潔氏の作品などを読んだことがある。
  5. 空の境界」に関しての雑感

率直に言って目新しい部分を感じない作品。別にそれが悪いわけではないし、目新しさや個々の要素を凝らして全体がお粗末になっている作品よりははるかにいいものだと思う。
それよりも作品全体に漂う、非現実感というか異質感が印象的だった。この手の特異な能力を持つ異質な人物の作品では、往々にして普通の人間を観察者というべき立場で登場させて、現実との相違を際立たせたり、逆に常識に結びつけたりするものでその役割を示す人物が確固として存在するにもかかわらず、その作品からの現実へのつながりがまるで感じられない。きつい言い方をすればすべてが作り物っぽい。どこらへんにそれがあるかと考えてみたら、やたらと登場する説明台詞にあると気づいた。通常、行動として語られない事由をキャラが補足として発言するような言葉がはっきりと解説役としての存在が口にする、という場面が多々あるのだけど、それによって読者側の想像の範囲を狭め、結果として個々人の常識との折り合いを阻んでいる。そのせいで、もっと突飛な世界感を持つ作品群よりもはるかに現実離れしているような印象を受けてしまう。ある意味かっちりとした世界観の形成には役立っているのだけど、読者が傍観者にならざるを得ない方法とも思う。
宇宙人がやってくるだの、狼男が活躍するだのでやたらと世界が崩壊しそうな伝奇小説の大家たちの作品とこの作品の違いは極めて狭い世界の話にもかかわらず、やたらと現実感のない話という異質感。それは個性であってよしあしのレベルではないのだけど、私にとってはこの作品はなんとも位置づけがしにくい。面白くなくはないけど進んで読もうという気にはなれない。現在進行形で読んでる部分はまだまだ半分にも満たない部分だし、今後これが変わっていくのかもしれないが、現状での正直な雑感はこれである。
まあ、要素の目新しさ、という点ではほんとに「ない」と言える。二重人格だのそれが殺人鬼だの殺す線だの点だのは菊地作品では定番すぎるネタだし、退魔針*1シリーズでは物を殺す点どころか、空間をゆがめる点に生かす点、鬼を殺す急所に水に立つツボなんてものまで出るからな。それをパクリだのなんだのと言う気はない、それは遡ればもっと原点があるだろうし、それをどう生かすかが小説の肝だと思っているのだから、むしろ使い古されたネタをどれだけオリジナリティあふれる作品に仕上げるか、が重要。という点ではむしろありきたりなネタを使っているこの作品を評価している。

*1:1995年〜